2011.03.23 (Wed)
地震、そして『誰がために鐘は鳴る』
『唐沢俊一の雑学王』 P.84
台風はともかく、地震の「最中」は、それどころではないという人が大多数だと思うが……。
百歩譲って、「地震や台風の最中に、性的興奮を感じるという人は数多い」のだとしても、
それは「キスで感じたオーガズムが、まるで地震を体験したようなショックに感じられたの
だ」とは、「実際に、」でつなげることのできる話でも何でもないだろうし。
で、「ヘミングウェイの『誰がために鐘は鳴る』で、初めてキスした男女二人」といえば、
石野真子の『狼なんか怖くない』を思い出したりもする。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1413415589
>石野真子の「狼なんか怖くない」の歌詞で質問です。
〈略〉
>「鼻が邪魔だと誰かがいってたわ」
>『誰がために鐘は鳴る』のバーグマンのセリフ、「キスのとき鼻が邪魔にならないかしら」
上の引用でいっているのは映画の話だけれど、ヘミングウェイの原作にも鼻がどうこうと
いうセリフは出てくる。
http://blog.goo.ne.jp/motosato8/e/40299b8fb1b4aeb0b5360fa267df7d90
>「ついでだけど、映画「誰がために鐘は鳴る」でロバートとマリアが初めてキスをするとき
>に、マリマリアが「自分はキスをしたことがないんだけど、キスをするときに鼻はどうなる
>のだろう?」と聞く場面があるね。」
>「ああ、あるある。」
>「小説での原文にもそういう場面はあるのかね。」
>「それがちゃんとあるんだね。」
>「どういう風に言ってるの?」
>
>「マリアがロバートに言うんだね。
>“Where do the noses go? I always wondered where the noses would go.”と」
>「なるほど。」
>「それに対してロバートが言うんだ。
> “Look turn thy head.” と。」
>「なるほど。」
>「そしてこう書いてあるね。
> And then their mouths were tight together and she lay close pressed against him
> and her mouth opened gradually and then, suddenly ,holding her against him, he
> was happier than he had ever been,lightly,lovingly,exultingly,innerly happy and
> unthinking and untired and unworried and only feeling a great delight
> and he said,
>“My little rabbit,My darling,My sweet,My long lovely.”
〈略〉
>「和訳ではどうなっているの?」
>「大久保康雄の訳を写すとこうなってるよ。
>『あたしたちの鼻、どういうぐあいになるの?あたしいつも不思議に思っていたのよ。鼻が
>どういう具合に向き合うのかしらと。』」
>『ねえ、頭を横に寝かせてごらん。』
>こうして、ふたりの口は、ぴったりとくっついた。彼女は横になったままからだを押し付け
>た。そしてすこしづつ口を開いていった。すると彼はだしぬけに、彼女を抱きしめたまま、
>かって一度もおぼえたことのない幸福を感じた。心が浮き立つほど、いとしくてたまらぬ
>ほど、胸がおどるほど、心の底から幸福で、なにも考えず、疲れも心配も忘れてしまっ
>た。ただ大きな歓喜にひたっていた。
>『かわいい兎さん。ね。マリア。かわいいマリア、いつまでも僕のかわいい・・・・』」
困ったことに、唐沢俊一のいうような「“地震が起きた”と感じるくだり」だとは思えないの
だが。
「二人には、キスで感じたオーガズムが、まるで地震を体験したようなショックに感じられた
のだ」という場面だとも思えない……。
先に孫引用したヘミングウェイの文章の続きに、それらしいことが書かれているわけでは
ないし、earthquake や tremor といった単語も見つからない。 まあ、これらの単語は作品
を通して登場しないようなのだけど。
http://column.com.pk/wp-content/uploads/2010/07/Ernest_Hemingway_-_For_Whom_the_Bell_Tolls.pdf
> “For Whom the Bell Tolls” By Ernest Hemingway 40
〈略〉
> “What do you say?” she said as though from a great distance away.
> “My lovely one,” he said.
> They lay there and he felt her heart beating against his and with the side of his
> foot he stroked very lightly against the side of hers.
> “Thee came barefooted,” he said.
> “Yes.”
> “Then thee knew thou wert coming to the bed.”
> “Yes.”
> “And you had no fear.”
一方、ネット上を探すと、地震、「大地が揺れる」といった記述もある。特に以下の、最初に
引用したものは唐沢俊一の記述に近い。
http://mangetu.jp/contents/howto/howto02.html
>ヘミングウエイの「誰がために鐘は鳴る」の中で、二人がキスをしたときに感じる「地震
>が起きた!」という感覚…これくらいのオーガズムを感じたら、安全日とは関係なく、妊
>娠しちゃうかも…。 だから、「好きな人とじゃないと妊娠しない」なんて迷信が、女性の
>間でまことしやかに囁かれるものです。
http://nikitoki.blog.so-net.ne.jp/2007-02-12-2
>この映画とキスについては有名ですので、ご存じの方も多いかも。
>映画の原作、ヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」の中で、
>二人がキスをしたときに「地震が起きた!」感覚。
http://happyjapan.wikia.com/wiki/Saikoropedia:さいころディクショナリー/た行
>誰が為に鐘は鳴る
>セックスの隠喩として「大地が揺れる」っていうのは、地震国ニッポンに住むものとしては
>なんか納得いかないものを感じるんだが。
これは、唐沢俊一のいう「初めてキスした男女二人」の「初めて」が、何か間違っていたと
いうことのようだ。
先の引用で使用した:
http://column.com.pk/wp-content/uploads/2010/07/Ernest_Hemingway_-_For_Whom_the_Bell_Tolls.pdf
で見ると、「time having stopped and he felt the earth move out and away from under
them」という表現が、最初のキス (P.40) のずっと後、P.88 に出てきている。
http://takano.lit.kyushu-u.ac.jp/~hemingway/literature/maria.pdf
> ジョーダンとマリアのセックスの場面もまた,しばしばメロドラマ的であると批判されて
>きた。二人がセックスをするとき,ジョーダンは「大地が動く」のを感じる。
>
> ...now beyond all bearing up, up, up and into nowhere, suddenly,
> scaldingly, holdingly all nowhere gone and time absolutely still and they
> were both there, time having stopped and he felt the earth move out and
> away from under them. (159)
>
>ジョーダンが性的絶頂に向かうにしたがって文章そのものが高揚していくのがよく分か
>る。しかしこの後も作品中で何度か現われる「大地が動く」という表現は,あまりにも通
>俗的である。しかし一見ふたりの性的高揚をドラマチックに描いているようだが,この
>直後のふたりの会話を読むと,上の引用の高揚感はあくまでジョーダンの視点から描か
>れたものにすぎず,マリアは必ずしも同じようには感じていなかったらしいことが分かる。
「キスで感じたオーガズム」と唐沢俊一は書いているが、キスだけで絶頂感を、という話
でもないような。
その他参考 URL:
- http://takano.lit.kyushu-u.ac.jp/~hemingway/literature/masturbation.pdf
- http://movie.goo.ne.jp/movies/p5470/story.html
- http://cobs.jp/jijinews/trend/2009/02/post_159.html
- http://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=1745&PAGE_NO=1&DSP_KIND=0&POINT=0&SORT=0&NETA=0&BOOK_MARK=0
「災害」のトリビア
人間は災害で極限状態に置かれたとき、
性的に燃え上がる。
ヘミングウェイの『誰がために鐘は鳴る』で、初めてキスした男女二人が、
“地震が起きた”と感じるくだりがある。
戦争の最中で、若者らしい恋愛をろくに経験していなかった二人には、キス
で感じたオーガズムが、まるで地震を体験したようなショックに感じられたのだ。
実際に、地震や台風の最中に、性的興奮を感じるという人は数多い。
台風はともかく、地震の「最中」は、それどころではないという人が大多数だと思うが……。
百歩譲って、「地震や台風の最中に、性的興奮を感じるという人は数多い」のだとしても、
それは「キスで感じたオーガズムが、まるで地震を体験したようなショックに感じられたの
だ」とは、「実際に、」でつなげることのできる話でも何でもないだろうし。
で、「ヘミングウェイの『誰がために鐘は鳴る』で、初めてキスした男女二人」といえば、
石野真子の『狼なんか怖くない』を思い出したりもする。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1413415589
>石野真子の「狼なんか怖くない」の歌詞で質問です。
〈略〉
>「鼻が邪魔だと誰かがいってたわ」
>『誰がために鐘は鳴る』のバーグマンのセリフ、「キスのとき鼻が邪魔にならないかしら」
上の引用でいっているのは映画の話だけれど、ヘミングウェイの原作にも鼻がどうこうと
いうセリフは出てくる。
http://blog.goo.ne.jp/motosato8/e/40299b8fb1b4aeb0b5360fa267df7d90
>「ついでだけど、映画「誰がために鐘は鳴る」でロバートとマリアが初めてキスをするとき
>に、マリマリアが「自分はキスをしたことがないんだけど、キスをするときに鼻はどうなる
>のだろう?」と聞く場面があるね。」
>「ああ、あるある。」
>「小説での原文にもそういう場面はあるのかね。」
>「それがちゃんとあるんだね。」
>「どういう風に言ってるの?」
>
>「マリアがロバートに言うんだね。
>“Where do the noses go? I always wondered where the noses would go.”と」
>「なるほど。」
>「それに対してロバートが言うんだ。
> “Look turn thy head.” と。」
>「なるほど。」
>「そしてこう書いてあるね。
> And then their mouths were tight together and she lay close pressed against him
> and her mouth opened gradually and then, suddenly ,holding her against him, he
> was happier than he had ever been,lightly,lovingly,exultingly,innerly happy and
> unthinking and untired and unworried and only feeling a great delight
> and he said,
>“My little rabbit,My darling,My sweet,My long lovely.”
〈略〉
>「和訳ではどうなっているの?」
>「大久保康雄の訳を写すとこうなってるよ。
>『あたしたちの鼻、どういうぐあいになるの?あたしいつも不思議に思っていたのよ。鼻が
>どういう具合に向き合うのかしらと。』」
>『ねえ、頭を横に寝かせてごらん。』
>こうして、ふたりの口は、ぴったりとくっついた。彼女は横になったままからだを押し付け
>た。そしてすこしづつ口を開いていった。すると彼はだしぬけに、彼女を抱きしめたまま、
>かって一度もおぼえたことのない幸福を感じた。心が浮き立つほど、いとしくてたまらぬ
>ほど、胸がおどるほど、心の底から幸福で、なにも考えず、疲れも心配も忘れてしまっ
>た。ただ大きな歓喜にひたっていた。
>『かわいい兎さん。ね。マリア。かわいいマリア、いつまでも僕のかわいい・・・・』」
困ったことに、唐沢俊一のいうような「“地震が起きた”と感じるくだり」だとは思えないの
だが。
「二人には、キスで感じたオーガズムが、まるで地震を体験したようなショックに感じられた
のだ」という場面だとも思えない……。
先に孫引用したヘミングウェイの文章の続きに、それらしいことが書かれているわけでは
ないし、earthquake や tremor といった単語も見つからない。 まあ、これらの単語は作品
を通して登場しないようなのだけど。
http://column.com.pk/wp-content/uploads/2010/07/Ernest_Hemingway_-_For_Whom_the_Bell_Tolls.pdf
> “For Whom the Bell Tolls” By Ernest Hemingway 40
〈略〉
> “What do you say?” she said as though from a great distance away.
> “My lovely one,” he said.
> They lay there and he felt her heart beating against his and with the side of his
> foot he stroked very lightly against the side of hers.
> “Thee came barefooted,” he said.
> “Yes.”
> “Then thee knew thou wert coming to the bed.”
> “Yes.”
> “And you had no fear.”
一方、ネット上を探すと、地震、「大地が揺れる」といった記述もある。特に以下の、最初に
引用したものは唐沢俊一の記述に近い。
http://mangetu.jp/contents/howto/howto02.html
>ヘミングウエイの「誰がために鐘は鳴る」の中で、二人がキスをしたときに感じる「地震
>が起きた!」という感覚…これくらいのオーガズムを感じたら、安全日とは関係なく、妊
>娠しちゃうかも…。 だから、「好きな人とじゃないと妊娠しない」なんて迷信が、女性の
>間でまことしやかに囁かれるものです。
http://nikitoki.blog.so-net.ne.jp/2007-02-12-2
>この映画とキスについては有名ですので、ご存じの方も多いかも。
>映画の原作、ヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」の中で、
>二人がキスをしたときに「地震が起きた!」感覚。
http://happyjapan.wikia.com/wiki/Saikoropedia:さいころディクショナリー/た行
>誰が為に鐘は鳴る
>セックスの隠喩として「大地が揺れる」っていうのは、地震国ニッポンに住むものとしては
>なんか納得いかないものを感じるんだが。
これは、唐沢俊一のいう「初めてキスした男女二人」の「初めて」が、何か間違っていたと
いうことのようだ。
先の引用で使用した:
http://column.com.pk/wp-content/uploads/2010/07/Ernest_Hemingway_-_For_Whom_the_Bell_Tolls.pdf
で見ると、「time having stopped and he felt the earth move out and away from under
them」という表現が、最初のキス (P.40) のずっと後、P.88 に出てきている。
http://takano.lit.kyushu-u.ac.jp/~hemingway/literature/maria.pdf
> ジョーダンとマリアのセックスの場面もまた,しばしばメロドラマ的であると批判されて
>きた。二人がセックスをするとき,ジョーダンは「大地が動く」のを感じる。
>
> ...now beyond all bearing up, up, up and into nowhere, suddenly,
> scaldingly, holdingly all nowhere gone and time absolutely still and they
> were both there, time having stopped and he felt the earth move out and
> away from under them. (159)
>
>ジョーダンが性的絶頂に向かうにしたがって文章そのものが高揚していくのがよく分か
>る。しかしこの後も作品中で何度か現われる「大地が動く」という表現は,あまりにも通
>俗的である。しかし一見ふたりの性的高揚をドラマチックに描いているようだが,この
>直後のふたりの会話を読むと,上の引用の高揚感はあくまでジョーダンの視点から描か
>れたものにすぎず,マリアは必ずしも同じようには感じていなかったらしいことが分かる。
「キスで感じたオーガズム」と唐沢俊一は書いているが、キスだけで絶頂感を、という話
でもないような。
その他参考 URL:
- http://takano.lit.kyushu-u.ac.jp/~hemingway/literature/masturbation.pdf
- http://movie.goo.ne.jp/movies/p5470/story.html
- http://cobs.jp/jijinews/trend/2009/02/post_159.html
- http://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=1745&PAGE_NO=1&DSP_KIND=0&POINT=0&SORT=0&NETA=0&BOOK_MARK=0
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