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2009.11.21 (Sat)

若さといっても恋のテレフォンナンバーじゃないリン燐リリン

『地上最強のムダ知識』 P.92 ~ P.93

オシッコを煮つめて「若さのもと」を見つけた男がいた
黒澤俊一・著『化学漫談』(全国出版・1980年)より
〈略〉
 17世紀のドイツに住んでいたブラントという人は、人間が歳をとるのは、
もともと体の中にある「若さのもと」が、だんだん外に流れ出て、失われて
いくせいではないかと考えた。
 毎日、少しずつ人体から出ていくもの、といえば、オシッコがある。きっと
あの中に若さのもとが溶けているに違いない。そうブラントは推測した。
 そこでブラントは、多少汚い実験だが、人間のオシッコを大量に集めて、
これを煮詰めてみたという。
 すると果たせるかな、水分を蒸発させたあとに、固体成分が残った。彼は
それに木炭を混ぜてるつぼで熱し、ついに若さのもとを抽出することに成功
した。
 この物質を暗闇においてみると、なんとそれは、暗闇の中でかすかに青く、
ぼうっと光を発するのである。
 これこそまさに若さの輝きだ、とブラントは狂喜した。今の目から見れば
何のことはない、尿の中に混じっている燐を抽出したに過ぎないのだが。
 もちろん、燐は有毒である。「若さのもと」だといって、これをそのまま服用
すれば死んでしまう(なにしろ燐は後世、猫いらずにも使われている)。
 燐を発見したブラントが、喜びのあまり、自分でそれを服用しなかったの
は、化学者としての慎重さだと褒められていいかもしれない。
 やがて彼は、燐が毒性を持っているのではなく、人体に、「若さ」を再吸収
しないシステムがあると考え、これを何とか人間に再吸収させる研究を完成
させようとした。しかし、それにはかなりの費用がかかる。
 そこでブラントは各地の貴族や王侯のもとを回り、「若さの鑑賞会」を行っ
てみせた。
 燐をテーブルの上に置いて部屋を暗くし、それが青く発光するのを見せると、
貴族たちは大喜びして、研究費を助成してくれたという。


×化学者としての ○錬金術師としての
×燐をテーブルの上に置いて ○燐を置いて

「煮つめて」と「煮詰めて」の表記不統一は原文ママ。「すると果たせるかな」の使い方も
何か変な気が。

「これこそまさにブラントは狂喜した」、「燐を発見したブラントが、喜びのあまり」などと、
唐沢俊一は書いているが、黒澤俊一著『化学漫談』の中には、そのような記述はない。
他の資料に書かれていることを参考文献の表示なしに勝手に混ぜているか、単なる
唐沢俊一の想像 (妄想?) か。

そして、『化学漫談』では、ブラントの「化学者としての慎重さ」は褒められていない。
そもそも、ブラントのことを、著者の黒澤俊一 (本の裏表紙の紹介によると、「東大応用
化学の出身」、「工学博士」で「東海大学教授」) は、「化学者」として認めてはいない。
ブラントのやっていたのは錬金術であり、それは直接は人智の進歩に寄与しないという
点で、化学とは違うものだというスタンスをとっている。

『化学漫談』 P.12 ~ P.13
> なぜかといいますと、錬金術は、コツを人に教えたのではつまらない。いいものが
>あったら自分だけこっそり持っていたい。〈略〉
> よく「近代化学のもとは錬金術にあり」といって、近代化学の発展における錬金術の
>地位を非常に高く評価する人がありますが、実際はそうじゃなくて、完全な秘密主義
>であるのが錬金術の錬金術たるゆえんなのです。


黒澤俊一は、秘密主義である錬金術の「その一例として、非常におもしろいのが燐の
発見の物語です」 (P.13) と続けているのだ。

『化学漫談』 P.14
> そのブラントが、それではなにから燐をつくったかというと、人間の小便からつくった
>のです。小便を煮つめますと固体が残りますが、その固体を木炭と混ぜて、るつぼの
>中に入れ、粘土で封をして空気との接触を絶ち、焜炉にのせて下から火であぶって
>やると、燐が出てくる。それを水を入れた壷の中に受けるというやりかたです。
> これを反応式で書きますと、燐酸カルシウムと珪酸と炭素が反応して、
>2Ca3(PO4)2 + 6SiO2 + 10C → P4 + 6CaSiO3 +10CO
> こういう反応で燐が出てくるわけです。


尿の中に混じっているのは「燐酸カルシウムと珪酸」なので、唐沢俊一の書いている
「尿の中に混じっている燐を抽出したに過ぎないのだが」は、ちょっとどうかと思うが、
まあ燐 (P) 原子は含まれているかなということで、おいといて。

『化学漫談』 P.15
> さて、ブラント氏は、なんで人間の小便などを使ったのか。使うにもことを書いて、もう
>少しましなものがありそうだと思われますが、これが若返りの秘法につながるんです。
> 人間というものはだんだん年をとる。しわがよって老人になってくる。昔は張りきって
>いた紅顔の美少年もついに垂死の白頭翁になるというわけで、だんだん年をとってく
>る。「これは人間から若さが抜けていくためだ。なんで若さが抜けていくんだろう。これ
>はきっと小便に溶けて出ていってしまうに違いない」と、こういう発想なんです。そこで
>人間の小便をたくさん集めまして、水分を蒸発させてしまう。あとに残った固体の中
>には若さが結晶して入っているはずである。この結晶したものをなんとか取り出して
>みたいというわけです。そこでいろいろやってみた結果、木炭を混ぜて乾留するのが
>一番よいのではないかということになり、やってみたところがはたして若さが出てきた。
>その若さというのはなんだろうか。夜、暗い所でみるとぼうっと青く光る。なるほど若さ
>の素だというわけである。


原文では、「木炭を混ぜて乾留」したら「はたして若さが出てきた」となっているところを、
唐沢俊一はその前段階の「水分を蒸発させてしまう。あとに残った固体」という時点で、
「果たせるかな、水分を蒸発させたあとに、固体成分が残った」とやってしまってるので
違和感のある記述となっているのだなあと思った。

『化学漫談』の方は、秘密主義な錬金術というテーマにつなげて説明を続ける。

『化学漫談』 P.17
> 人間が年をとってだんだんしわくちゃになって、ヨボヨボしてくるのはなぜかというと、
>若さが小便に溶けて流れて出てしまうからだ。その若さを回収して不老長寿の薬を
>つくって、それをなめたらいいだろうということになった。ところが、うっかりなめると燐
>には毒性がある。「ネコいらず」に使われるぐらいですから死んでしまう。そんなわけで
>なめてみるわけにはいかなかったけれども、そういうような発想があった。
> これをブラントは人に教えない。みつけたのは一六六九年、人によっては一六六七
>年という人もありますが、とにかく製法を秘密にしているばかりではなく、そのものも、
>ただではみせない。熱心な人にだけ、見物料をとってコッソリみせてやる、という次第。
> 当時のドイツは小国林立でありまして、ほうぼうにたくさんの王侯貴族がいた。その
>王様とか、あるいは公爵とか伯爵とか、そういう王侯貴族や金持ちの商人の所で、
>講習会を開くわけです。そこで、「これが若さの素であります」と宣伝する。「今これを
>飲むと死んでしまうけれども、これからなんとか死なないで、これを飲んだらすぐ若返
>るような薬をつくり上げる。そのためには研究費が必要なので、その研究費をひとつ
>出して欲しい。嘘でない証拠にやってみせましょう」というわけで、そのできた燐の塊
>を暗い所でみせる。なるほどぼうっと光っている。「ああ、あれだ、あれだ」というわけで
>みなから研究費を集めるというようなことに使ったそうです。ブラントは、結局この観覧
>料収入で、結構死ぬまで研究費に不自由はしなかったそうです。


「そのものも、ただではみせない。熱心な人にだけ、見物料をとってコッソリみせてやる」
「この観覧料収入で」という部分は、なぜか唐沢俊一はスルー。「それが青く発光するの
を見せると、貴族たちは大喜びして、研究費を助成してくれた」とのみ書いているけど、
それだと「お代は見てのお帰り」という話にかわってしまいそうな気も。

その代わりに、唐沢俊一は、「燐が毒性を持っているのではなく、人体に、『若さ』を再
吸収しないシステムがあると考え、これを何とか人間に再吸収させる研究を完成させよ
うとした」という、どこからもってきたかわからない記述を挿入する。

『化学漫談』のブラントは燐――つまり、尿の水分を蒸発させたものに木炭を加えて乾留
したもの――は毒性をもっているという認識のもとに、そこから毒の部分をのぞき、「これを
飲んだらすぐ若返るような薬をつくり上げ」たいと思っているようにしか読めないのだが。

「人体に、『若さ』を再吸収しないシステム」うんぬんとは、『化学漫談』には書かれてい
ない。ついでに、「燐をテーブルの上に置いて」の「テーブル」というのも、どこにも書いて
いなかったりする。

まあ、http://www.tms.org/pubs/journals/jom/0706/byko-0706.html を参照すると、
当時の錬金術師の開催する王侯貴族向けのショーは、テーブルの上に何かを置いて、
それを囲む見物者に何かをみせるという形式が多かったのかなとは想像することは可能
だけど。ただし、ブラントの「講習会」の図は見つからなくて、ここや英語版 Wikipedia に
載っているブラントを描いた図:
http://www.tms.org/pubs/journals/JOM/0706/fig3.jpg
は、「講習会」の絵ではないし、ブラントの燐発見のおよそ 100 年後の 1771 年に描か
れた想像図でしかない。

ちなみに、このような絵↓も残っているが、これはブラントの燐発見の 200年ほど後に
描かれたもの。
http://www.artoftheprint.com/artistpages/ulm_emile_thealchemist.htm

さすがに秘密主義の錬金術だけあって、当時の詳細をそのまま伝える資料をみつける
のは容易ではなさそう。


『地上最強のムダ知識』 P.93

 実はブラント自身は、裕福な商人の息子だったが、化学道楽で財産を
すっからかんにしてしまっていた。しかし、その結果発見した燐が、彼の
後半生を救ったのである。
 まったくの方向違いであったにせよ、燐を世界で最初に発見した人という
名誉を、ブラントは担っている。彼を儲けさせてやったのは、燐の恩返しだっ
たかもしれない。


×裕福な商人の息子 ○裕福な商人
×化学道楽 ○錬金術道楽

唐沢俊一は、ここでも錬金術という言葉を使うのを、なぜか避ける。錬金術という言葉は
一回も使っていない。「化学道楽で財産をすっからかん」って、何だろうそれと思うけど、
これについては、『化学漫談』の説明を読めばよくわかる。

『化学漫談』 P.13 ~ P.14
>このブラントという人は、ハンブルク市の裕福な商人でしたが、錬金術に凝って、とう
>とう家産を放蕩してしまったという人です。
> 元来、錬金術をやるということは、貧乏人にはできないことなのです。第一、十分な
>教育を受けて、むずかしい書物が読める人でなければならない。そのような書物は、
>手に入れるのがむずかしい。中には極秘発禁の本もある。いずれにしても高価なもの
>です。そのうえに、錬金術に使う器具は、ビーカー、フラスコを初めとして、いずれも
>非常に高価である。薬品類にしても、どこにでもあるというものではない。中にはわざ
>わざ自製しなければならない、といったような具合で、錬金術をやろうというのは、大
>変な金がかかるものなのです。ブラントが燐を発見するまでには、莫大な経費がか
>かったのも当然です。


で、『化学漫談』には、ブラントは「裕福な商人でした」とはあるが、「裕福な商人の息子」
とは書かれていない。

そもそもブラント本人の出自も今ひとつはっきりしていない (これも秘密主義のせい?) と
いうのがあって、親の職業まで言及している資料は見あたらないという感じ。

http://en.wikipedia.org/wiki/Hennig_Brand
> Hennig Brand(t) (c. 1630 – c. 1710) was a merchant and alchemist in Hamburg,
> Germany who discovered phosphorus around 1669.
> Early life
> The circumstances of Brand's birth are unknown. Some sources describe his
> origins as humble and indicate that he had been an apprentice glass-maker as a
> young man. However, correspondence by his second wife Margaretha states that
> he was of high social standing.


http://ja.wikipedia.org/wiki/ヘニング・ブラント
>1670年頃はハンブルクに住んでいた。商人という説と医師であったという説がある。

まあ、親が富裕層だった可能性は高いだろうし、唐沢俊一流の貴種流離譚萌え~
ここでもやりたかったのかなと想像することは可能。書名をあげて紹介しているその本の
中には、そんなことは書かれていない――などということを気にするような唐沢俊一では
ないし。


最後に、「彼を儲けさせてやったのは、燐の恩返し」とか、燐を妙に擬人化するような
記述も、『化学漫談』の中にはない。

ブラントが「観覧料収入で、結構死ぬまで研究費に不自由はしなかった」のは、結局は
彼の山師的才覚によるものだし、燐を擬人化するにしても、「恩返し」というにふさわしい
ものかなあという疑問も。ブラントが財産を食いつぶしてまで求めた不老不死の薬 (賢者
の石) というエサをちらつかせながら、生かさず殺さず引っ張ってきたともいえるわけだ
から。

関連ガセビア:
最初にガセを減らさずどんどん本を出せるという非常識の世界を覚えてしまうことで、
 常識的理性がマヒ?


その他参考 URL:
- http://en.wikipedia.org/wiki/Hennig_Brand
- http://www.wdic.org/w/SCI/燐
- http://www.wdic.org/w/CUL/純情系化学少女ケミカル☆リン
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Comment

>通りすがりさん。
どうもです。(_ _) なるほど、それで、ブラントが狂喜したとか、テーブルの上でどうこうとかの出所の説明はできそうですね<世界ふしぎ発見!

残る謎は、「燐が毒性を持っているのではなく、人体に、『若さ』を再吸収 しないシステムがある」のくだりでしょうか。

錬金術における賢者の石に、そういう性質というか設定あったっけ? と首をひねっているところです。
トンデモない一行知識 |  2009年11月22日(日) 00:53 |  URL |  【コメント編集】

このブラントの描写は、おそらくTBSで放映中の世界ふしぎ発見!で昔放映された錬金術のときを見たまま書いたのではないかと思われます。
テーブルがあって、青く光るフラスコを手にしたブラントがにやにやしています。
通りすがり |  2009年11月21日(土) 23:24 |  URL |  【コメント編集】

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