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2009.10.09 (Fri)

河童も鬼も人形も似たようなもん(?)

『トンデモ一行知識の逆襲』 まえがき

 例えば、知識の無用性の極致としては、こんな一行知識があった。

 河童の腕は抜けやすいので、河童と相撲をとったときは腕をつかんで
振り回すとよい。
 (名古屋市 米田茂さん)

 これを読んで、“なるほど、今度河童と出会ったら……”と考えてメモする
人はいやしない。覚えていたところで、まったく何の役にも立たない知識の
極限みたいなものだが、なんとなく、民話の世界をかいまみたような、ほの
ぼのしたメルヘンを感じられる、いい一行知識である。


唐沢俊一先生の本を使うと知識の伝播というより電波の伝播になっちゃいます」の
エントリーに引用してからこっち、少し気になっていた河童の件について。

唐沢俊一には、「覚えていたところで、まったく何の役にも立たない知識の極限みたい
なもの」であり、「なんとなく、民話の世界をかいまみたような、ほのぼのしたメルヘンを
感じられる」というだけのことと片づけられてしまっているけど、以下に引用するように、
こういうことを真面目に研究しているところも当然のように存在していて……。

http://homepage1.nifty.com/miuras-tiger/sub2-h.html
>(『「知」の世界へどうぞ-千葉大学研究紹介・2』 千葉大学 1998.2)
〈略〉
>面白いと思うのは、なぜカッパが川に棲むようになったかという起源神話の共通性で
>す。川に棲む妖怪をメドチと呼ぶ東北にも、ヒョウズベと呼ぶ九州にも伝えられている
>のですが、カッパはもとは人形だったというのです。ある有名な大工(たとえば左甚五
>郎)が宮殿を建てる時、人夫が不足して約束の期日に遅れそうになり、木を組み合わ
>せてたくさんの人形を作り、魂を吹き込んで人足にして働かせ、無事に建物は完成し
>た。そして、必要のなくなった人形たちを川に棄てたところ、カッパになった。だから、
>棄てられたカッパは人を恨んで馬や子どもを川に引きずり込んで殺すのだというのが
>カッパの起源神話です。
〈略〉
> もういちどカッパに話題をもどしますが、よく知られているように、カッパの弱点は頭
>の皿で、皿に水がないと力を出せません。そしてもうひとつ、カッパには重大な弱点が
>あります。それは、腕が抜けやすいことです。カッパは人間に相撲を挑んでくるのです
>が、その時には、腕をもって強く引っ張るのがいいのだそうです。
> では、なぜカッパの腕は抜けやすいのだと思いますか。 ………そうです。カッパは
>木を組み合わせた人形だったからです。胴体に木の腕が付けられているので強く引く
>と抜けてしまうというのです。相撲をして腕を抜いた男のもとにカッパが来て、腕を返し
>てくれたら秘薬を授けるというので腕を返してやると、手足が抜けたり捻挫した患部に
>塗るとたちどころに治るという膏薬の作り方を教えてくれます。それを「河童膏薬」と名
>付けて売ったという接骨院や薬屋が全国にあります。今いうところの湿布薬のCMです。
> この腕の抜けやすいというカッパの弱点は、アイヌのカッパも同様です。アイヌ語で
>カッパは、ミンツチと言います。おそらく、東北地方の方言メドチと繋がり、古代語のミ
>ツチとも関連があると考えられるのですが、このミンツチの弱点も腕が抜けやすいこと
>で、それは彼らがヨモギ(蓬)の茎を組み合わせて作った人形だからだと伝えていま
>す。村を守る神オキクルミカムイが海の向こうから疱瘡神が攻めてくるのを知り、ヨモ
>ギで人形を作って戦わせ、その奮戦の結果、恐ろしい流行病の神を退散させることが
>できた。その時の勇敢なヨモギの兵隊たちが傷つき死んでミンツチになったというわけ
>です。

> このようにカッパに関わる伝承を眺めていくと、ばらばらにあるように見える古代も現
>代も、日本列島の各地もアイヌも、いろんな形でつながり合っているのだということが
>わかってきます。あるいはまた、日本人の考え方や行動原理を見出すこともできます。
> 私の研究室で今年卒業論文を書いている学生たちは、ヘビや龍や継子いじめや英
>雄や夢や異郷訪問などの伝承と格闘し、なぜ、なぜと問い続けながら、日本文化の
>根源にある何かを見つけようと必死です。そしてそれは、私たちはどのような存在で、
>どのように生きていけばいいのかということを考える上で、とても大切なことだと思って
>います。


まあ、門外漢は、「伝承と格闘し、なぜ、なぜと問い続けながら、日本文化の根源にある
何かを見つけようと必死」になり、「私たちはどのような存在で、どのように生きていけば
いいのかということを考える」まではそうそういかないとしても、せっかくの学問の成果を
「一行知識」の収集を充実させる方向に活用しようとしない唐沢俊一の淡白さは、何かと
もったいない気がする。

何かの工事のために、人形を人足にして使い、用が済んだら川に捨てたものが河童の
起源――という話は聞いたことがあったものの、それを河童の腕が抜けやすいという話と
つなげて考えたことはなかったので、「カッパは木を組み合わせた人形だったからです。
胴体に木の腕が付けられているので強く引くと抜けてしまうというのです。」には、素直に
「へぇ~」ボタンを押したくなった。

それと、「塗るとたちどころに治るという膏薬」の話って、そういえばどういうのだっけと
気になったのでググってみたり。

http://www.geocities.jp/bane2161/kaxtupa.html
>昔むかし、現原の殿様が領地の見まわりを終えて屋敷に帰る途中、梶無川かじなし
>がわの橋を渡っていると馬が動かなくなってしまいました。
>ふりかえると子どもくらいの怪物が、馬のしっぽをつかんで川にひっぱり込もうとしてい
>るではありませんか。殿様は「村人を困らせている河童だな。こらしめてやろう」と刀で
>斬りつけました。
>河童は悲鳴を上げて川の中に姿を消しました。お屋敷に戻ると馬のしっぽには河童の
>手がぶら下ったままでした。
>その晩のこと、河童がしょんぼりとやって来て「私は梶無川の河童です。腕がないと泳
>げないし魚もとれません。どうぞ腕を返してください。」と頼むのです。
>かわいそうに思った殿様が返してやりますと、「私どもには妙薬があり腕をつなぐくらい
>わけありません」と言って薬を傷口にぬり、ひょいと腕をくっつけました。
>殿様が驚いていると「お礼にこの薬の作り方を教えます。それにこれから毎日魚を差し
>上げます。もし魚が届かぬ時は、私が死んだと思って下さい」と言って帰っていきました。


以下の 2 つも同じような話。
- http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/07/11.htm
- http://jurin.i-ra.jp/e93366.html

これ↓は……何かちょっと違って、河童の腕に噛み付いている。
- http://www.totsukawa-nara.ed.jp/bridge/guide/folktale/ft_0252.htm


膏薬の話には、腕が抜けたのではなく、切り落とされたという話となっているものもある。

http://www.tcct.zaq.ne.jp/ohgosho/th/th10/k-arm.txt
>■ 地域(都道府県名) 群馬県
>■ 要約 医者が往診の帰り、山道の途中の川橋で馬が動かなくなり、暗闇の中で医
>者は刀を振り、切り落としたものを家で見ると河童の腕だった。夜河童が訪れ、腕を返
>すとお礼に膏薬の作り方を教えてくれた。


切られた腕を返してくれというのは、鬼みたいな奴だなとも思うが、さすがに鬼が相手の
場合は、膏薬だの川魚の土産だのは、からんでこない模様。安倍晴明は出てきたりする
けど。

http://ibaragidoujide.gozaru.jp/ken.html
>さて綱は廻廊より跳り下りて、もとどりに附きたる鬼が手を取りて見れば、雪の貌は引
>替へて、黒き事限りなし。 白毛隙なく生ひ繁り銀の針を立てたるが如くなり。
>これを持ちて参りたりければ、頼光大きに驚き給ひ、不思議の事なりと思ひ給ふ。
>「晴明を召せ」
>とて、播磨守安倍晴明を召して、
>「如何あるべき」
>と問ひければ、
>「綱は七日の暇を賜ひて慎むべし。鬼が手をば能く能く封じ置き給ふべし。祈祷には
>仁王経を講読せらるべし」
>と申しければ、そのままにぞ行なはれける。
〈略〉
>綱、答へて曰く、
>「安き事にて侯へども、固く封じて侍れば、七日過ぎでは叶ふまじ、明日暮れて侯へば
>見参に入れ侯ふべし」
>母の曰く、
>「よしよし、さては見ずとても事の欠くべき事ならず。我は又この暁は夜をこめて下るべし」
>と恨み顔に見えければ、封じたりつる鬼の手を取り出だし、養母の前にぞ置きたりける。
>母、打返し打返しこれを見て、
>「あな怖しや。鬼の手といふ物はかかる物にてありけるや」
>と言ひてさし置く様にて、立ちざまに 「これは我が手なれば取るぞよ」
>と言ふままに恐ろしげなる鬼になりて、空に上りて破風の下を蹴破つて虚に光りて失せ
>にけり、それよりして渡辺党の屋造りには破風を立てず、東屋作りにするとかや。
>綱は鬼に手を取返されて、七日の斎破るといへども、仁王経の力に依て別の子細なか
>りけり。


上の引用は、「『完訳日本の古典 平家物語』(小学館)の巻末のおまけ』からだそうだ
けど、『今昔百鬼拾遺 雨之巻』にも同じような話が収録されている。
- http://park.org/Japan/CSK/hyakki/zukan/jyuui/ame/rajomon.html

河童と相撲をとって、相手の腕を「力いっぱい振り回した」ら、河童の腕が抜けてしまった
という話の方にも、様々なバリエーションがある。

http://www.d-b.ne.jp/siga/panora/kamiura/takikouen2.html
>やがて、田の草取りは済み約束どおり地蔵さんの前の広場こ集まった。六兵衛は相
>撲の礼式をして両手をついて頭を下げ尻を上げることを教えた。それは、カッパは頭
>の皿に水がなければ三つ子に等しいからだ。六兵衛はカッパをかたっぼしから投げ倒
>し、最後に残った大将にも相撲の礼式をさせ、立ち上がるやいなや相手の右腕をとっ
>て力いっぱい振り回した。カッパの腕はスポッと音をたてて抜けた。
>カッパどもは尻を抜ききらず、大将の腕はもぎとらて、ほうほうの体で引き揚げていった。
〈略〉
>ところがその後、毎夜のことカッパは川魚を持って六兵衛の家に現れ、「大将の腕を
>返してくれえ」と哀願した。そして六日目の晩、うとうとしている六兵衛の枕元に三匹の
>カッパが現れ、「七日過ぎると腕が元どおりにくっつかんので、明日の晩までにぜひ返
>してほしい。そのかわり、じいの言うことは何でも聞くから」と哀願した。


七日過ぎると時間切れなので、六日目の晩に腕を取り戻しにあらわれるというのが、
渡辺綱の鬼の話と少し似ているかなというのが、何か面白いと思った。

同じ大分の話でも、以下に引用するように、「郵便配達の途中」と時代が比較的新しい
ものも存在する。こちらは「七日目の晩」に河童は腕を戻してもらっている。また、こちら
には、尻こだまをとる前に「尻をなでる」パターンの河童も登場。

http://www.naokawa.jp/new/mukasi/note03.html
>ある時、ヨシおいさんが郵便配達の途中に淵の上を通りかかると急にお腹が痛 くなり
>川原の竹藪の中で用を済ませ、あいにく紙がなかったので、川の中で洗っていると
>何か「ヌルッ」としたものが尻をなでた。「しもうたここは弓取ん淵じゃった。河童が俺
>ん尻のこを取りにきよった」いやらしい色をした河童の手が尻のこにかかっていた。
>ヨシ おいさんは河童の手をつかむと、思いっきり振り回した。すると河童の腕がちぎれ
>た。〈略〉七日目の晩、河童は 「今晩中に返してくれんと腕がつながらんごつなる」と
>泣き出した。ヨシおいさんは河童 がかわいそうになり、腕を返すかわりに弓取ん淵に
>ある岩が腐るまで人間の尻のこは取ら んと約束させ返したそうな。


その他、河童の腕については、「腕は伸縮自在」とか、「左右通して1本になって」いて、
片腕を引っ込めて、もう片方の腕を長く伸ばすという話もある。この話については、正直、
知らんかった。

http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1110969341
>はい。片腕がずるずるって引っ込んで反対側の腕が伸び、馬や牛を抱え込むように
>水の中に引きずり込むという言い伝えがあります。
>追記 :
>伸縮自在な腕については四国・九州に多く伝えられているようです。全国の河童伝説
>を集めた柳田国男の「河童駒引」では、杵築(きつき)に伝わる話として紹介。


http://www.tcct.zaq.ne.jp/ohgosho/th/th10/k-arm.txt
>形は童児に似て、頭頂に水を湛えた皿があり、髪はオカッパ、腕は伸縮自在だとか、
>左右通して1本になっている、などという。


じゃあ、その「左右通して1本になって」いるという腕を、両腕がつながっている状態で、
うまいこと引っこ抜けるのかどうかについては不明。

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